【業界調査レポート】東京都心主要再開発エリア概観 〜ヒルズとミッドタウン〜

 東京都心を歩いていると、想像以上に多くの場所で再開発工事が行われていることに驚きの念を隠せない。なかでも特に大規模な複合開発は、人流や周辺の不動産価格にも大きな影響を及ぼしている。本稿では、森ビル株式会社による「ヒルズ」シリーズと、三井不動産株式会社による「ミッドタウン」シリーズのうちこれまで開発された象徴的な以下の6つに焦点を当て、各施設の特徴、変遷、商業戦略の傾向を改めて整理したうえで、今後の展望含め概観してみたい。

1.ヒルズシリーズ

(1)六本木ヒルズ(2003年開業)





 開業前から「都市型高級施設の象徴」として注目され、カルティエやティファニーなどの高級ブランドやミシュラン獲得レストランが集積。一方で、当初は高価格帯テナントへの違和感を持つ声もあった。現在では、森美術館やけやき坂のイルミネーションなど文化・地域連携を通じて、東京を代表する都市拠点として定着。ゴールドマン・サックス証券*やグーグル日本法人が高層階に入居するなど、ビジネス面でも安定した評価を得ている。インバウンド需要も多く、観光地としての知名度が高いため、訪日客を意識した店舗構成も継続して強化されている。グランド・ハイアット東京が敷地内に併設されており、宿泊・ビジネス・観光の全方位をカバーしている。

*近年虎ノ門ヒルズへ移転

(2)虎ノ門ヒルズ(2014年開業)

 「ビジネス街再編の象徴」として開業し、虎ノ門エリアの再評価を促した。ポルシェやテンセントが拠点を構える。開業後も周辺エリアの再開発が続き、ステーション・タワー(2023年開業)を含む形で拡張。ゴールドマンサックス証券が六本木ヒルズより移転するなど、国際水準の都市機能を備えたビジネス拠点としての成長が続いている。インバウンド比率は六本木ヒルズより低いと思われるものの、国際会議や外資企業の集積により、ビジネス系訪問客の需要が安定している。アンダーズ東京(ハイアット系ホテル)がタワー内に位置し、国際的な宿泊ニーズにも対応している。2025年1月には「ポルシェ ターボチャージングステーション」が地下駐車場内に開設された。

(3)布台ヒルズ(2023年開業)

 開業前から国内外の富裕層をターゲットとした都市型高級居住・商業施設として話題に。ドイツ銀行や日本タタ・コンサルタンシー・サービシズなどが入居。高級飲食店やラグジュアリーブランドが揃い、開業初年度から高い集客力を示している。特に訪日富裕層の受け皿として設計されており、ショッピング・飲食の単価も高く、インバウンド消費が売上構成比に大きく寄与している。高級志向過ぎるがゆえに来館者数全体の伸びは苦戦しているとの声もきかれる。ホテルはアマン・グループが手掛ける「ジャヌ東京」であり、さらなる注目を集めている。


2.ミッドタウンシリーズ

(1)東京ミッドタウン(六本木、2007年開業)

 「緑と都市機能の融合」をコンセプトに、赤坂・乃木坂エリアの文化・生活との調和を重視した構成。ファーストリテイリング、富士フイルムホールディングスなどが入居。セレクトショップや上質な飲食店が並び、日常の中に高級感を取り入れるスタイルで安定した人気を維持。インバウンドは同地区にある六本木ヒルズと比べると若干控え目のように思われるものの、感度の高い訪日客を中心に一定の需要が見込まれている。ザ・リッツ・カールトン東京が同施設に入居しており、国際的なラグジュアリーニーズにも対応。

(2)ミッドタウン日比谷(2018年開業)

  劇場街に隣接した立地を活かし、「文化と上質なカジュアル」の融合を図る。EY Japanなどが入居し、ビジネスと娯楽の双方に対応。映画館・広場を中心とした構成で、日比谷ブランドを支える施設として機能している。インバウンド比率はミッドタウン六本木よりもやや低めだと思われるものの、観光ルート上にあることから欧米系旅行客の来訪も多い。施設内にはレクサスブランドの発信拠点「LEXUS MEETS...」があり、都市型モビリティとの融合も図られている。

(3)ミッドタウン八重洲(2023年開業)

 東京駅直結という立地特性を最大限に活かした複合開発。三井化学等の大企業が入居し、国際ビジネス層のニーズに応える構成。飲食施設はビジネスパーソン向けに効率と質を両立させたラインナップ。海外出張者や空港連携を意識した訪日ビジネスマン向けの機能が充実しており、滞在型インバウンドの一部も取り込んでいる。宿泊機能としては上層階にはブルガリホテル東京が入っており、富裕層向けの都市滞在を支えている。

【図1】施設比較一覧

施設名開業年区域面積年間来館者数インバウンド比率
六本木ヒルズ2003年約11.6ha約4,000万人(2023年)高い
虎ノ門ヒルズ2014年約7.5ha非公開中程度
麻布台ヒルズ2023年約8.1 ha約2,300万人(2024年推定)高い
東京ミッドタウン(六本木)2007年約10.2ha約3,000万人(2025年推定)高い
東京ミッドタウン日比谷2018年約1.2 ha約1,500万人(2023年推定)中程度
東京ミッドタウン八重洲2023年約1.5 ha約1,000万人(開業後7カ月)中程度

東京ミッドタウン日比谷および東京ミッドタウン八重洲は、大規模な公園や庭園等を有しておらず、区域面積は相対的に小規模にとどまっている。

3.ショッピング・レストランにみるヒルズシリーズ、ミッドタウンシリーズの違い

 ヒルズシリーズは、非日常の高級感を基調としたミシュラン店や高級ブランドを中心に構成されている。六本木ヒルズには「ジャン・ジョルジュ トウキョウ」や「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」などのファインダイニング、麻布台ヒルズには「鮨さいとう」「フロリレージュ」など世界的に名高いレストランが揃う。ショッピングでは「ルイ・ヴィトン」、「カルティエ」などのラグジュアリーブランドが並ぶ。

 一方、ミッドタウンシリーズは「日常の上質さ」に焦点を当て、ビジネス層・ファミリー層向けの施設構成が特徴である。東京ミッドタウンには「ユニオンスクエア東京」「ニルヴァーナ・ニューヨーク」などがあり、ミッドタウン日比谷には「レストラン トヨ トウキョウ」「LEXUS MEETS..」など、高級でありながらも幅広い層にも親しみやすいブランド・レストランが揃う。

【図2】ヒルズシリーズとミッドタウンシリーズの特性の違い

項目ヒルズシリーズミッドタウンシリーズ
ショッピンググローバル高級ブランド中心上質な日常・ライフスタイル重視
レストランミシュラン店・高価格帯中心カジュアル高級・ビジネス対応型
ファッション世界的ハイブランド・富裕層向けハイブランドに加え洗練された日常着・ファミリー・ビジネス層向けも

4.今後の展望

  • インバウンド需要の拡大:観光庁・東京都の統計によると、2025年にはコロナ前の水準(2019年)を超える可能性がある。短期的には円安水準の修正によるインバウンド需要のピークアウトも想定されるものの、長期的には訪日客の「量」と同時に、需要によりマッチしたサービスへの転換が進み、富裕層・高単価消費を狙う施設、なかでも麻布台ヒルズなどの需要が高まる可能性があると見られる。
  • 来館者数の見通し:六本木ヒルズ、東京ミッドタウンなどの成熟施設は安定維持が続く。一方麻布台ヒルズ、ミッドタウン八重洲のような新規施設は、開業3年以内に年間3,000万人超の定着を目指すとみられる。
  • 賃料水準の変化:東京都心5区のオフィス平均賃料は2023年時点ではやや横ばい傾向だったものの、高機能・新築ビルへの需要は根強く、ヒルズ、ミッドタウンいずれも他の商業ビルとの比較すると上昇圧力はかかりやすいといえる。
  • 高稼働率の継続:施設により相応の差はあるものの、入居率は概ね90%-95%以上を維持しているものと思われ、訪日客・国内外企業の本社回帰傾向を背景に、今後も空室率の低位安定が続くと予測される。

 ヒルズやミッドタウンが形成する新たな都市軸は、六本木・麻布台・虎ノ門から日比谷・八重洲へと連なる「東西の回廊」として機能し始めており、過去の山手線沿線主要ターミナル(東京・渋谷・新宿・池袋など)を中心とした直線的な都市構造から、グリッドのようなより広域的かつ機能分散型の都市ネットワークへと進化を遂げつつある。東京都心は、多核化しながらも連携する「都市間連動型」へとシフトしつつあり、これら再開発拠点は年月をかけ再定義されていくと同時にその数も増加していくだろう。



(2025年5月2日作成)

出所:森ビル株式会社公式サイト、三井不動産株式会社公式サイト、および各種関連情報等をもとにHATTO COMPANY株式会社が作成。

当レポートはHATTO COMPANY株式会社の独自の見通しに基づくものであり、その内容の正確性を保証するものではありません。当レポートの内容から直接的及び間接的に生じる一切の損失はHATTO COMPANY株式会社が責任を負うものではありません。無断転載は禁じられています。

    【業界調査レポート】東京都心主要再開発エリア概観 〜ヒルズとミッドタウン〜” に対して2件のコメントがあります。

    1. コバケン より:

      ヒルズとミッドタウンのコンセプトの違いや、グリッド機能分散型へのシフトなど、良く整理されていて、面白く読ませて頂きました。

    2. HATTO COMPANY より:

      有難うございます!フィードバックがとても参考になるのでうれしいです。

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