【調査レポート】ステーブルコインは飛躍するか

ここ数年、ステーブルコインに関するニュースを目にする機会が一段と増えてきました。
ステーブルコインとは、法定通貨などに価値を連動させることで安定性を持たせたデジタル資産です。
価格変動が大きい仮想通貨とは異なり、安定した決済・送金手段として世界的に普及が進みつつあります。ドルやユーロ建てのものはすでに広く流通しており、2025年9月にはいよいよ日本円建てステーブルコインも流通を開始する見通しです。
当レポートでは、ビットコインとの比較からステーブルコインの見通しを以下にまとめてみました。
ビットコインの誕生と日本での経験
仮想通貨の誕生は2008年、匿名の人物 サトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto) が発表したホワイトペーパーにあります。
中央管理者を持たずに取引の正当性を保証する「ブロックチェーン」の概念は革新的で、2009年にビットコインのネットワークが稼働しました。
その後、2010年代前半に日本でもビットコインが大きなブームとなります。東京に拠点を置いた取引所 Mt.Gox(マウントゴックス) は一時、世界取引量の7割以上を扱い、日本が仮想通貨の中心とまで見られていました。
私自身も2013年当時、この熱気に触発され少額ながらビットコインを購入しました。しかし2014年のMt.Gox破綻に直面し、大きなショックを受けた経験があります。
この事件は「仮想通貨の脆弱性」を世界に示し、各国が規制を強化する転機となりました。
ビットコインの課題
ビットコインは平均10分ごとにブロックを生成する等の仕組みを持ち、決済完了まで30分から1時間程度を要します。
さらに Proof of Work(PoW) という取引の正当性を保証するコンセンサス方式を採用しており、世界中の膨大な計算資源が競争を繰り広げます。
これは、例えるなら「全員で腕相撲をして勝った者だけがブロックを作れる」方式で、安全性と分散性は高い一方、莫大な電力を必要とするという非効率性を抱えています。
ビットコインは発行上限が2100万枚と決まっていますが、上限に達しても電力消費はなくなりません。
というのもマイニングは新規発行だけでなく取引承認そのものを支える仕組みであり、上限到達後もPoWによるブロック生成競争は続くからです。
その際の報酬は新規発行ではなく取引手数料に移行し、電力消費を伴う構造自体は継続すると言われています。
こうした課題を克服する仕組みとして注目されているのが Proof of Stake(PoS) です。
PoSは資産を一定期間預けた人の中から抽選でブロック生成者を選ぶ仕組みで、計算競争が不要なため電力効率に優れ、決済スピードも速いという特徴があります。実際にEthereumは2022年にPoWからPoSへ移行し、消費電力を99%以上削減しました。
もっとも、ビットコインがPoSに移行する可能性はほぼありません。
PoWはビットコインそのものの存在意義の根幹をなす仕組みであり、またマイニング産業の既得権益も大きいため、合意形成は現実的に不可能と考えられています。
ステーブルコインの登場と信用リスク
こうしたビットコインの課題を補う存在として、ステーブルコインが登場しました。
1コイン=1通貨単位で法定通貨に価値を連動させることで、価格の安定性を実現しています。
ステーブルコインは、自分自身でPoWやPoSを動かすのではなく、EthereumやPolygonといった既存のブロックチェーン上で発行されるトークンです。ステーブルコインの安定性を支えるのは、裏付け資産と発行体の信頼性にあります。
したがって、その発行体リスクに注意が必要です。
代表例であるテザー(USDT)は裏付け資産の透明性を巡り、規制当局から調査を受けた経緯があります。
信頼を左右するのは「担保資産が本当に存在し、十分に開示されているか」という点に尽きます。
日本では2023年の改正資金決済法により、ステーブルコインは「電子決済手段」として法的に位置付けられました。
発行主体は銀行・信託会社・資金移動業者に限定され、利用者保護の観点から世界的にも厳格な制度設計がなされています。
一方で自由度やイノベーションのスピード感に制約がかかる可能性があるとも指摘されることがあるようです。
世界的な潮流と円建ての意義
近年、各国で自国通貨建てのステーブルコインの発行が始まっています。
ドル、ユーロ、人民元などと連動するコインが次々に登場し、国際金融システムに徐々に組み込まれています。
依然として市場の中心は「ドル建て」ですが、日本円建てステーブルコインの登場は、円で為替リスクを回避できる新たな手段として大きな意味を持ちます。
特にクロスボーダー取引では、ドルを介さずに円で完結できる点が投資家や企業にとってメリットとなります。
代表例が、国内のフィンテック企業 JPYC株式会社 が発行する「JPYC」です。
プリペイド式の円建てステーブルコインで、既に一部の電子商取引や決済に使われています。
法改正を経て今後は「電子決済手段」として正式に位置付けられる見通しであり、円建てステーブルコイン普及の先駆けになる存在です。
新しい金融インフラとして
既存の国際送金システム(SWIFT)はコストも時間もかかります。
これに対し、ステーブルコインは即時決済かつ低コストを可能にし、不動産投資や海外SPCへの資金移動にも相性が良いと考えられます。
さらに、不動産ST(セキュリティ・トークン)と組み合わせれば、分配金や賃料を自動処理するなど、金融実務に直結する活用も期待できます。
ビットコインが示した「管理者を持たない価値移転」の思想は、決済速度や電力効率に課題を抱えながらも、金融の新しい道を切り拓きました。
同時に、発行主体を持たない分散性や2100万枚という希少性からくる「デジタル・ゴールド」としての位置付けは、ビットコインの現在の取引価格から判断しても、依然として評価されているといえるでしょう。
一方でステーブルコインは、安定した価値と制度的裏付けを備え、より実務に適した仕組みとして普及が進みつつあります。
特に円建てステーブルコインの登場は、日本の投資家や不動産金融の現場にとっても、次の時代の実用的な決済インフラを示す重要な一歩となるといえるのではないでしょうか。