DeepSeek(ディープ・シーク)の衝撃 ~生成AIとトランプの皮肉

先日、中国のAI企業「DeepSeek」が、従来の生成AI技術と比較して大幅な低コストで同等以上の性能を持つ生成AIを発表しました。このニュースは米国市場に大きな衝撃を与え、特に半導体大手NVIDIAの株価に影響を及ぼしました。同社の株価は1月27日(月)だけで17%下落し、約5,890億ドル(約91兆円)の時価総額を失いました。これは、トヨタ自動車の時価総額(約45兆円)の2倍に相当します。他のテクノロジー企業にも影響は波及し、同日Googleの親会社AlphabetやMicrosoftもそれぞれ時価総額を大きく減少させました。
トランプ大統領と「Stargate」計画
このDeepSeekの発表とほぼ同時期に、トランプ大統領はAI分野への巨額投資計画「Stargate」を発表しています。この計画は、ソフトバンクの孫正義氏やOpenAIのサム・アルトマン氏らと連携して、5,000億ドル(約78兆円)を投じ、AIや次世代半導体分野を支援するという壮大な構想です。その中では、直ちに1,000億ドル(約15.6兆円)がAIデータセンターの建設に充てられる計画が進行中です。
しかし、その直後にトランプ大統領は「AIも安い方が良い。これは米国に対するwake up callだ」と発言し、DeepSeekの低コスト技術を評価するかのような姿勢を示しました。この発言は、自ら発表した巨額な資金を投じるStargate計画に対する皮肉のように受け止められています。
米国の半導体規制と消費者の行動
米国は技術的優位性を確保すべく高性能な半導体の中国への輸出を規制しています。しかし、DeepSeekのアプリは米国内で急速に普及し、1月だけでダウンロード数がChatGPTを抜いて第1位になるという現象が起きています。
これはすなわち、アメリカの多くの一般消費者が生成AIを使用することにより自らの「頭の中」をDeepSeekに預け、そのデータが整理された形で結果的に中国政府に把握される可能性があるという事態を引き起こしています。この点でも、米国が半導体規制を強化する一方で、消費者自身が積極的に中国企業のサービスを利用するという皮肉な現象が浮き彫りになっています。もしかしたらトランプ大統領自らDeepSeekを使ってしまうかもしれません。
いずれにせよ、例えばメタ社はDeepSeekの技術に対する検証チームを組み内容の精査に取り組んでいるとの報道等もあり、今後徐々に詳細が明らかになってくるものと思われます。生成AI業界のパラダイム・シフトにもなりうるDeepSeekの動向から当面目が離せません。