スパイスからカレーを作る男とは付き合わない方がいいのか

高校生の頃、ためたお年玉を握りしめて初めて革ジャンを買った思い出の街、アメ横。

もう3年ほど前になるが、上野のアメ横へ行く機会があった。通りの様子は高校生当時の面影を残していたものの、通りはかなり海外色――それもアジア色が強くなっていた。御徒町駅改札を出て上野駅方面へ近づくにつれ、気づけば香港かどこかの裏通りを歩いているかのような錯覚に陥る。真っ赤な豚足や何だかわからない部位等が並ぶ店が乱立する光景は、これはこれで刺激的で面白い。

だが、今日の本題はそこではない。

賑やかなアジアの熱気の中、昔からそこにあるような、とある地味な乾物屋がなぜか目に留まった。 覗いてみると、そこはアジアのスパイスの宝庫だった。クミン、カルダモン、シナモン、ガラムマサラ……。見れば見るほど面白い。

じっと見つめる私に、店員のおばちゃんが放った一言が、心に突き刺さった。

「お兄さん、このスパイスでカレーを作ったら、もう他のカレーは食べられなくなるからね。」

やばい、脳のどこかが覚醒したような気がした。 すると、待ってましたと言わんばかりに「カレースパイス7種セット」が、買ってほしそうに目の前に並んでいる。

とはいえ、スパイスからカレーなど作ったことがない。 「作ったことないけど、できるかな?」とおばちゃんに聞くと、 「大丈夫、大丈夫!簡単だから!」と背中を押され、気づけば私はその7種セットを手にして帰路についていた。

スパイスカレーは究極の「ズボラ飯」

袋を開けると、中にはA4用紙1枚に文字だけが書かれた、実にあっさりしたレシピが入っていた。 何か色々と書いてあったが、実際にやってみると思ったよりも遥かに簡単だったのだ。

手順を究極にまとめると、こうだ。

  1. 油で玉ねぎとスパイス(3〜4種類)を焦げない程度に炒める。
  2. トマト缶、残りのスパイス、ヨーグルト、肉を入れて混ぜる。
  3. 水を注いで煮込む。

――以上、完成である。

お好みに合わせて野菜など、なんでも好きなものを入れていい。 少し慣れてくると、もう分量なんて計らなくなる。適当に全部放り込んで煮るだけだ。

そのため、我が家では毎回違った味(笑)が食卓に並ぶ。 不思議なことに、入れたスパイスの量で風味は結構変わるが、どのような配分になったとしても、これまで一度も不味かった試しがない。毎回、脳が喜ぶ美味さになる。小麦粉が入っていないのでカロリーも相当低い。

家族の評判もすこぶる良い。 特に次男はこの味の虜になり、気づけば自分でスパイスカレーを作り始めるほどハマっていた。

しかし、そんな我が家のキッチンを見て、長男がふと冷ややかな一言を放った。

「巷ではさ、『スパイスからカレーを作る男とは付き合うな』って説があるらしいよ」

マジか。知らなかった。 自分は構わないがこれからの人生次男がかわいそうだ。気になって理由を調べてみると、どうやら「こだわりが強すぎる男と付き合うと疲れるから」ということらしい。

……わからないでもない。わからないでもないが、ここで私は世に声を大にして言いたい。

「果たして、スパイスからカレーを作るという行為は、本当に『強いこだわり』から来るものなのだろうか?」

いや、断じて違う。 先述した通り、手順としては「全部フライパンに入れたら終わり」と言っても過言ではない。分量なんて毎回適当、どんな配分になっても結局美味しく仕上がるからだ。

つまり、私がたどり着いた結論はこうだ。 スパイスカレーとは、料理における「究極の簡単料理」であり、スパイスからカレーを作る男は、こだわりが強い男ではなく、「究極のアバウト(大雑把)な男」なのだ。

本当に警戒すべき「地雷」は、別にある

だからどうか、カレーを作る男を怖がらないでほしい。

本当にヤバいのは、カレーを作る男ではない。 実は以前、私はケーキを焼いたことがある。

あれは本当に恐ろしい世界だった。注意点が無数にある。 卵白を泡立てる際、ボウルに少しでも水分が入ったらダメだとか、材料の分量比率が崩れると綺麗に焼き上がらないだとか、オーブンの温度を正確にセットするだとか。

ある時、健康を気にしてグラニュー糖を「ラカント」に置き換えてみたことがある。 結果は、なぜかまずくて食べられたものではなかった。家族の微妙な表情をみたあの時の悲しい気持ちは今でも忘れられない。

ケーキを上手に焼く行為に比べれば、スパイスカレーなんて砂場で泥遊びをしているようなものだ。ケーキを焼くという行為ほど、ミリ単位の細かい気配りと、狂気的なこだわりが必要な料理はない。パティシエは神だ。

ということで、結論。

「スパイスからカレーを作る男」は、ただの大雑把で扱いやすい男です。仲良くしてあげてください。

(先日インドから帰国した友達との同窓会でみんなが笑ってくれたネタだったのでブログにしました)

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