【調査レポート】金利上昇。不動産価格はどうなるか。

これまで日本では長い間、極めて低い金利を前提として不動産価格が形成されてきました。

その前提が、今大きく変わり始めています。

日銀の政策金利は現在1.0%程度まで上昇しています。日米金利差を背景とした円安への警戒も相まって、今後の金融政策にはさらなる金利引き上げへの圧力がかかっています。日本の長期金利(10年国債利回り)も大きく上昇、足元3.0%前後で推移しています。

金利の上昇は、不動産市場にどのような影響を与えるのでしょうか。

結論からいえば、金利上昇は不動産価格にとって明確な下押し要因です。

ただし、現在の東京の不動産市場を「金利上昇=不動産価格下落」という単純な構図だけで捉えることも適切ではありません。

不動産価格を形成する要因を、当レポートではもう少し多面的に考えてみたいと思います。

1.金利上昇が不動産価格へ与える二つの要因

一つ目は、資金調達コストの上昇です。

住宅であれば住宅ローン、投資用不動産であれば投資用ローン、法人による不動産取得であれば事業性融資など、借入金利の上昇は物件取得コストの上昇に直結します。

同じ価格の不動産でも金利が上昇すれば返済負担は増え、購入可能額には下押し圧力がかかります。

二つ目は、投資家が不動産に求める利回りの上昇です。

低金利の時代には、預金や国債など安全性の高い金融資産から十分な利回りを得ることが難しく、相対的に不動産投資の利回りには魅力がありました。

しかし、長期金利が上昇すれば、この関係は変化します。現在、10年国債利回りは約2.9%、30年国債利回りは約4.0%となっています(2026年9月4日現在)。

他の投資対象から得られる利回りが高くなれば、価格変動や流動性などのリスクを伴う不動産には、それに見合う、より高い利回りが求められます。

同じ賃料収入を前提とすれば、要求利回りの上昇は不動産価格の下落要因となります。

つまり金利上昇は、「資金調達コストの上昇」と「投資家が求める利回りの上昇」という二つの観点から、不動産価格に下押し圧力をかけます。


2.不動産価格が単純には下がらない理由

一方、不動産は土地・建物という実物資産です。

インフレによって経済全体の物価水準が上昇する局面では、不動産にも賃料や様々なモノの価格の上昇を通じてその影響が波及しやすく、一般にインフレ耐性を持つ実物資産と位置付けられます(将来の値上がり期待)。

特に重要なのは賃料です。

物価や所得など経済全体の名目水準が上昇しているなか、新規募集賃料や既存契約の賃料にも既に上昇圧力がかかってきており、不動産が生み出す収益そのものを押し上げる要因となります。

したがって、不動産価格を考えるうえで本質的なのは、「金利がどこまで上がるか」だけではなく、要求利回りの上昇を、中長期的な賃料・収益の伸びがどこまで吸収できるのか、といった視点が重要になります。

現在の東京では、金利上昇による価格の下押し圧力と、インフレ、賃料上昇、需給による価格の上昇圧力が同時に働いていると考えられます。

加えて、土地取得費、人件費、資材費などの上昇によって、新たな不動産の供給コストが上昇しています。新築物件の供給価格が上昇すれば、既存不動産との価格差を通じて、不動産市場全体の価格は上昇する要因の一つになります。

3.金利と並んで重要な「信用供給」

不動産市場を見るうえで、もう一つ重要なのが信用供給、つまり金融機関の貸出姿勢です。

金利水準だけでなく、銀行が、誰に、いくらまで、どのような条件で貸すのか、言い換えると物件価格の何割まで借り入れることが可能なのか(LTV:Loan to Value)等といった動きに注目する必要があります。

これも不動産市場を左右する重要な要因です。

金利が上昇しても金融機関が積極的な融資を続けていれば、不動産市場への資金供給は続きます。

反対に、融資比率の引き下げや審査の厳格化が進めば、必要な自己資金が増え、買い手の減少や取引量の縮小につながります。

つまり、「金利上昇」と「信用収縮」を分けて考える必要があります。

日本銀行の2026年4月の金融システムレポートでは、不動産価格の上昇が続くなか、不動産関連融資は全産業向け貸出を上回るペースで増加しています。

現時点では、金利は上昇してきているものの、不動産市場への信用供給そのものが急速に収縮している状況にはないといえるでしょう。

4.注意すべきは「金利・信用・政策」の3つ

1980年代末のバブル崩壊については、以前のレポートでも触れましたが、単に「金利が上昇したため不動産価格が下落した」と捉えるだけでは十分ではありません。

当時は金融引き締めに加え、不動産向け融資に対する総量規制が導入され、さらに土地を巡る税制も強化(地価税の導入)されました。

.金融引き締め(金利の引き上げ)

2.信用供給への規制(総量規制)

3.土地に対する税制面からの抑制(地価税の導入)

少なくとも現時点では、当時のように不動産取引を抑制するような政策が重なっている状況とは異なります。

ただし、もし今後不動産価格の上昇が社会的・政策的な問題として強く意識されるようになる場合は、金融機関の融資姿勢に加え、金融行政や税制を含む政策対応の変化には注意が必要です。

5.「市場全体」より「価格の根拠」

金利上昇が、不動産市場にとって明確な逆風であることはここまでお伝えした通りです。

一方で、インフレによる賃料上昇、実需、供給制約、金融機関からの信用供給など、価格を支える要因も存在します。

このため今後の東京の不動産市場では、すべての不動産が同じ方向に動くというより、物件ごとの選別が強まるものと考えられます。

実需があり、賃料・収益の伸びが期待できる不動産や、供給が限られ、立地や特性に希少性を持つ不動産は、その価格を支える根拠が比較的明確であり、金利上昇への耐性を相対的に持ちやすいと考えられます。

一方、短期間で価格が大きく上昇した超高額物件や、利用価値・賃料・収益力などからみて価格の裏付けが乏しい物件については、価格調整が進む可能性があると考えられます。

これから重要になるのは、現在の価格が、その不動産が持つ本来の価値にどこまで裏付けられているのかという視点です。

金利のある世界に戻ったことで、改めて一つひとつの不動産について、新しい経済環境のもとでのその価値が問われる局面に入ったと考えられます。

将来変化し得る「立地」の価値

金利やインフレとは異なる観点になりますが、最後に言及しておきたいものとしてテクノロジーによる都市環境の変化があります。

例えば、米国テキサス州オースティンでは、2026年9月3日、Teslaがハンドルやペダルを持たない無人自動運転車「Cybercab」を投入し、一般利用者向けのRobotaxiサービスを開始しました。 時を同じくして、ロンドンでもWayveとUberが一般利用者向けの自動運転配車サービスを開始しました。後者の方は、現段階ではセーフティドライバーが同乗していますが、自動運転が実証実験の段階から実際の移動サービスへと急速に移行しつつあることを示しています。

こうしたテクノロジーの進展によって、人々の移動コストや利便性が大きく変化することが見込まれており、従来の「駅からの距離」をはじめとする不動産の立地評価そのものが、今後変化する可能性があります。日本も将来的には上記の変化からは逃れることはできないと言えます。

不動産の価値を考えるうえでは、現在の金融・経済環境だけでなく、その街や人々の移動、働き方、暮らし方が将来どのように変化していくのかという視点も、今後さらに注目したい点となります。

HATTO COMPANYでは、金融・経済環境、賃料、需給、信用供給、都市構造などを総合的に捉えながら、今後も不動産の価値とその変化を継続的に考察していきます。

参考コラム|東京の不動産価格を海外主要都市と単純比較できるか

東京の不動産について、ニューヨーク、香港、シンガポールなどと比較して「まだ割安」とする見方があります。

ただし、こうした比較では、都市構造そのものの違いを考慮する必要があります。

ニューヨークのマンハッタン、香港、シンガポールはいずれも地理的制約が大きく、比較的限られたエリアに都市機能が高密度に集積しています。シリコンバレーを含むサンフランシスコ・ベイエリアも、湾や山地などの地理的条件による制約を大きく受けています。

一方、東京は巨大な都市圏の中に、丸の内・大手町、日本橋、銀座、六本木、青山、渋谷、新宿など複数の拠点が形成され、それらが高度に発達した鉄道・地下鉄網によって面的に結ばれています。近郊地域から都心へのアクセスも極めて充実しています。

広い範囲で高い都市利便性を享受できる東京と、地理的制約の強い海外主要都市の不動産価格を、単純な㎡単価だけで比較することには留意が必要でしょう。

もっとも、東京不動産の相対的な割安感には近年の円安による影響も考慮する必要があります。

※2026年9月5日現在。上記はHATTO COMPANY株式会社の独自の見通し等に基づき作成されており、その内容の正確性を保証するものではありません。

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