相続税対策の取り組み方 ~小規模宅地等の特例の盲点〜

多くのお客様とお話をしていますと、相続税の話に及ぶことが少なくありません。
相続税対策は、今や必ずしも資産家のみの課題ではなくなりました。
現在、相続税の計算における遺産に係る基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。
2015年の税制改正前(2014年12月31日まで)は「5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人の数」でしたので、当時と比べると大幅に課税最低限が引き下げられた状況です。
長年住んできた自宅を、相続税を納めるために売却せざるを得ないような状況を避けるためにも、知っておかなければならないことがあります。
そのうちの一つが、相続税の計算上、土地の評価を大幅に下げられる「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下、小規模宅地等の特例)」です。
特例の3つの利用区分
この特例は、土地の利用実態に応じて、一定の要件を満たした場合に、以下の限度面積まで土地の相続税評価額を減額することができます。
1.特定居住用宅地等(マイホームの敷地など) … 最大330㎡まで80%減額
2.特定事業用宅地等(本業の店舗・自社ビルなど 。貸付事業用を除く)… 最大400㎡まで80%減額
3.貸付事業用宅地等(アパート・マンション・駐車場など) … 最大200㎡まで50%減額
実はこの特例、上記の通り自宅(特定居住用)以外にも、事業用(特定事業用)や貸付事業用の土地にも適用可能だということは意外と知られていません。
もし相続する土地が「特定居住用宅地等」と「特定事業用宅地等」の2種類だけであれば、それぞれの限度面積をフルに併用できます。
つまり、330㎡ + 400㎡ = 合計730㎡まで、一律80%減額にすることが可能です(完全併用)。
(居住用を除く相続開始前3年以内に取得・貸付を開始した不動産については、小規模宅地等の特例の適用が除外される例外規定(いわゆる駆け込み対策規制)が適用される場合があるため注意が必要となります。)
貸付事業用を混ぜるとルールが一変する
非常に強力な制度ですが、「貸付事業用宅地等」の適用については、極めて慎重な検討が必要です。なぜなら、これを選択することで、より減額割合の大きい他の強力な特例枠(特定居住用・特定事業用)を大きく削ってしまうリスクがあるからです。
国は、貸付事業用の土地を特例対象に混ぜる場合、全体の限度面積を一律で厳しく制限する方針(調整計算)をとっています。
例えば、すでに330㎡(約100坪)ほどの広い自宅土地(特定居住用宅地等)を持っている方が、さらなる相続税対策として新しくアパートを建築したとします。
いざ相続が発生し、自宅の土地330㎡で特例(80%減額)をフルに適用してしまうと、それだけで全体の併用上限枠を使い切ってしまいます。
その結果、当特例を期待して取得したアパートの土地(貸付事業用宅地等)にはほとんど特例を適用できなくなるという状況が起こり得ます。
せっかく相続税対策の一環としてアパート等を建築しても、この特例の枠組みにおいては効果をほとんど期待できないケースが少なくありません。
実務上のアプローチ
実務では、減額率の高い特定居住用や特定事業用の宅地に特例を集中させる「有利選択」を行うのが原則です。
この特例において貸付事業用(アパート等)が活きるのは、主に「自宅の敷地が狭い方」や「そもそも持ち家がない方」、あるいは「自宅とアパート用地の土地単価がよほど乖離している場合」などに限られます。
しかし、それでもアパート等の建築による資産圧縮効果そのものが否定されるわけではありません。
当特例を使わずとも、原則として土地は「貸家建付地」、建物は「借家」として評価されるため、現金で持っているよりも相続税評価額を下げるメリットは確実に存在します。
ただし、令和8年の税制改正大綱では相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価方法(時価との乖離の是正)が見直される動き等もあるため、最新の動向に留意が必要です。
いずれにせよ、税法はマンション税制含めここ数年本当に頻繁に改正が行われています。過度に節税を目的化して対策を打つよりも、しっかりと安定したキャッシュフローを生み出す事業(不動産経営含む)を主目的に据えつつ、副次的に相続税対策を組み合わせていくというスタンスが、対策のリスク管理上からも、最終的には最も手残りを多くする賢い視点になると考えられます。
【留意事項】上記は国税庁HPほか各種公開情報等を基にHATTO COMPANYが独自に作成しています。無断転載等を禁じます。

